教育機会確保法案、ドワンゴ、宮崎駿さん……

11月18日、教育機会確保法案が、衆院の文部科学委員会で採決された。24日には参院の文部科学委員会が開かれ、このまま可決成立になる見込みだという。

この法案について言うべきことは、すでにさんざん述べてきたので、くり返さないが、反対してきた人にとってはもちろん、法案を推進してきた人たちにとっても、禍根しか残さなかったと言えるだろう。

私は、問題は法案以前にあり、法案以後にあると、くり返してきた。それを一言で言えば、教育が多様化や自由化という名のもとに民営化され、「選択と集中」で、より競争的、選別的な方向になっていくということにある。

現法案は、旧法案に比べれば、よほど歯止めが利いているとは言えるが、推進している人たちは、旧法案のほうがよかったと思っていて、そちらの方向に向かっての「一歩前進」だと意気込んでいる。この法案を推進してきた人たちは、いったい、どこに向かいたいのだろうか。多様化・自由化の先に、何を求めているのだろうか。

●宮崎駿さん×ドワンゴ川上量生さん


11月13日に放送されたNHKスペシャル「終わらない人 宮崎駿」では、宮崎駿さんと、ドワンゴの川上量生会長とのやりとりが話題になった。CG技術のプレゼンで宮崎さんのもとを訪れた川上さんは、人体が頭を使って移動する映像を見せる。そして、AIを使えば、頭は大事なものだとか、痛覚があるという人間の発想を超えて、気持ちの悪い動きをつくりだせるとアピールしていた。それに対し、宮崎さんは、その映像に痛みや身体性への思いがいっさいないことへの不愉快さを示し、生命に対する侮辱を感じると批判されたのだった。批判された川上さんは、あくまで実験だと釈明したが、それに対しても、宮崎さんは「それで、あなた方はどこに向かおうとしているんですか」と問われていた。

このやりとりには、とても考えさせられるものがあった。それは、たんに映像技術の問題を超えて、いまの社会が向かおうとしている方向に対する、ひとりの作家としての、生身の人間としての、プロテストを感じたからかもしれない。

●N高校×東京シューレ

ドワンゴは、N高校という広域通信制高校を開校している。N高校の教育方針は「世の中にまだないモノを生み出す力」を育むことだという。教育機会確保法案が向いている方向を象徴するのは、まさに、こうした学校だろう。それは、従来、フリースクールなどが大事にしてきたものとは根本的にちがうもので、相容れないものだと言いたい。言いたいのだが、残念ながら、法案を推進してきたフリースクールは、同じ穴の狢となっている。

11月28日には、NPO法人東京シューレと学校法人角川ドワンゴ学園N高等学校の主催で、「中高生の不登校と学びの多様化」というイベントが開かれる。講演するのは、鈴木寛さん(文科大臣補佐官)と奥地圭子さん(東京シューレ理事長)だ。

●あきらめずに

今回の法案をめぐって、その内容をめぐる意見の対立もあるが、それ以前の問題として、なぜフリースクールをやってきた人たちが、ドワンゴに象徴されるような自由化路線といっしょになってしまったのか、理解に苦しむ人も多いだろう。私自身、その落胆は大きい。それでも、いまの社会に落胆するだけではなく、宮崎駿さんがあきらめずに作品制作に向かおうとしているように、私たちも、自分たちが大事にしたいものから、活動を地道につくっていきたい。

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