緊急アピール:ちょっと待った! 多様な教育機会確保法案

6月11日に開催した緊急集会には、不登校の親の会、フリースクール、居場所、不登校経験者、保護者、教員、研究者など、さまざまな立場から28名の参加があった。賛否さまざまで、踏み込んだ話し合いが行なわれた。本アピールは、関係者のなかにも懸念や危惧の声も大きいことから、その部分についてアピールするものである。そのため、集会参加者の総意による採択ではなく、有志による採択とした。

※集会に寄せられたメッセージを、アピール文の後ろに、PDFにまとめている。

ちょっと待った! 多様な教育機会確保法案
緊急アピール
2015年6月11日
不登校・フリースクール等関係者有志

5月27日、超党派のフリースクール議員連盟が「多様な教育機会確保法案」の試案を示し、今国会中での成立を目指すと発表した。

法案の目的は「さまざまな事情で義務教育を充分に受けていない者(年齢、国籍に問わず)」に対して、教育機会を確保する施策を総合的に推進すること。試案では、保護者が学校以外で学ぶことを選んだ場合、「個別学習計画」を作成し教育委員会に申請し、教育支援委員会(新設)が審査・認定すれば、就学義務の履行と認め、保護者に経済的支援をするとしている。いわば、教育バウチャーである。

「年齢、国籍を問わず、教育機会を多様に確保する」という法案の趣旨に異論はない。これまでの画一化された学校教育が多様化する必要性もあるだろう。しかし、示された法案には、さまざまな懸念がある。拙速を避け、国会への提出より前に、以下の論点を含め、充分に論議を尽くすことを求める。

1.義務教育民営化への懸念
法案は、フリースクールと夜間中学校を支援対象としているが、教育バウチャーとなった場合、塾産業が参入してくることが考えられる。たとえば2004年の構造改革特区では、株式会社立の学校が相次いで設立された(ほとんどは広域通信制高校)。しかし一部の広域通信制高校では、教員ひとりに対する生徒数が多すぎる、レポート添削がマークシートのみ、事務体制の不備、管轄自治体が実態を把握していないことの問題などが、文科省の調査によって指摘されている。

アメリカやイギリスにおいては、「教育改革」の名のもと、教育の民営化=商品化が進んだことで、格差拡大など、さまざまな問題が起きていることも指摘されている。教育領域の市場化が何をもたらすのか、きちんとした検証が必要だろう。

2.権利主体は誰にあるのか?
法案は、保護者に学習の場の選択権をゆだねている。しかし、子どもと保護者のニーズは必ずしも一致するとはかぎらない。保護者と子どものニーズが対立的である場合は想定されるべきだろう。子どもの意見表明権(国連子どもの権利条約12条)が充分に確保される必要がある。また、学校側からのニーズによって、保護者や子どもの意志に反して、学校から排除されるケースが生じないか、懸念される。

3.不登校への「支援」となるのか?
多くの子どもたちが不登校となる背景に、子どもたちが教育評価的なまなざしでのみ自分のことを見られることに疲弊しているという問題がある。不登校は、その視線からの撤退だとも言える。フリースクールなどの役割は、その撤退を保障するという面があり、いわば「居場所」としての機能を果たしてきた。

多様な教育機会を保障するといっても、それが成果主義になるのであれば、教育評価の視線が細分化することで、かえって子どもは逃げ場を失ってしまうだろう。

そのほか、さまざまな懸念が考えられるが、フリースクール等に関わる立場から、とりいそぎ、以上3点を懸念としてあげる。また、義務教育制度を大きく変えていくものになる以上、フリースクールや夜間中学校関係者だけではなく、学校教育関係者との論議も充分に尽くされる必要がある。拙速を避け、国会への提出より前に、じゅうぶんな論議を尽くすことを求める。


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