立法チーム条文ヒアリング-2(論点整理)

多様な教育機会確保法案について、8月18日の議員ヒアリングで論点となったことを整理しておきたい(メモが不十分で、議論の全体をカバーしきれていないことは、ご容赦いただきたい)。

◎理念法なのか特別措置法なのか?

共産党の田村智子議員から、「この法案は多様な教育についての理念法なのか、就学義務の特例を認める特別措置法なのか?」という質問があった。これに対し馳浩座長は「あくまで就学義務が前提であって、その特例を認めることだ」と応答した。中井敬三全国都道府県教育長協議会会長からも、基本理念に「学校教育法第一条に定める学校での普通教育を原則とするが」との文言を入れるべきだとの意見があり、馳座長も応じるかまえを見せていた。
これまで、馳座長は「この法案は、不登校のなかでも学校にほとんど来ない子どもたちの存在が立法事実で、学校外で学び育っている現状を追認するための法案だ」との説明をくり返してきた。しかし、法制度上は、あくまで一条校への就学義務を前提とせざるを得ない。「普通教育」の内容に多様性が認められ、それが理念的に保障される法案にはなっていない。そのため、ホームスクーリングやオルタナティブスクールなど、初めから就学義務を前提としない場合については、原則的には認められないものになっている。立法側の現行制度と不登校の現状との矛盾を何とか解消したいという意気込みはわかる。また、解釈で実をとるという面もあるとは思うが、これは法律の根本的な問題なので、運用面で変えていくことのできる問題ではない。これまで推進する側が言ってきたように「この法案で多様な教育が認められる」というほど、単純な話でないことは確かだ。

◎「二重学籍」は解消されるのか?
また、この法案の必要性の根拠に、「二重学籍」問題があげられていたが、この法案では「二重学籍」は解消されない。学校から教育委員会に籍が移るものの、フリースクールなどで独自に卒業資格が出せるわけではないからだ。認定するのは教育委員会となり、しかも修了書という卒業証書とは異なる形式での認定となる。

◎個別学習計画は現状追認?

この法案で、いちばんの問題になっているのは個別学習計画だが、これについても「基本的に現状を追認するもので、学習指導要領に沿うものを求めているわけではない」と、馳座長からはくり返し見解が示されている。しかし、法案では学校教育法第21条の目標を達成するよう定められている。そこに「発達段階及び特性に応じつつ」との文言が入ったのは、配慮の結果だと思うが、この点も、法の根本的な位置づけとしては、学校教育を補完する法としてしか位置づけられないのは確かだ。
学校復帰が前提であるがゆえに義務教育の届いてない児童生徒に対し、特別措置で現状を追認しながら教育機会を保障しようという立法者側の意図はわかる。しかし立法側の意図がどうあれ、実際に運用するのは教育行政だ。教育委員会からは、次のような疑問や要望があがっている(8月18日のヒアリング資料をもとに山下がまとめた)。

・実施にあたっての市区町村教育委員会の負担は相当なもので、財政的措置が具体化されないままでは、実施が危ぶまれる。 
・修了認定は「学習状況を総合的に評価」とあるが、漠然としていては現場に混乱が生じる。修了認定の基準を明確に示されたい。
・フリースクール等での柔軟な活動が阻害されないよう過度に厳格な計画が求められないようにすることが必要だが、国が責任をもって個別学習計画の認定・認定取り消しの基準や手続きについて明確な指針を示すことが必要。

・フリースクールなどへの監督責任は誰が負うのか。株式会社立の通信制高校においては、教育活動の質の低さが問題となり、指導監督が不十分であることが問われている。
・これを商機と考える学習塾が「フリースクール」を掲げて営業を行った場合、実質的に学校教育の否定になりはしないか?
・フリースクールや家庭学習の場が、今法案で逆に「フリー」の部分を奪われることにつながるのではないか。
・学校とフリースクールが連携して指導・支援を進めている例も出てきているが、除籍によって教員に「もう我が校の生徒ではない」という意識が生まれると、そうした取り組みが阻害される可能性もある。

個別学習計画の策定や修了認定を厳格化するとフリースクールなどの活動を阻害することになる。しかし、何でもありとなると、営利目的の塾産業や質の低下なども懸念され、監督責任も問われる。明確な基準がなければ行政側の恣意的な運用が問題になることもあるだろう。
立法者側の意図が現状追認にあるからといって、事はそう単純ではない。

◎そのほか
以上のほか、不登校の場合だけではなく、学校でいじめで苦しんでいる子どもたちも対象にしてほしい(奥地)、教育に限定するのではなく福祉との連携が必要(西野)などの論点が出されていた(山下が出した意見については先に書いたので割愛)。
まだ書き漏らしている論点もあったかと思うが、とりいそぎ気づいた点をまとめた。
いずれにしても、立法チームは明日21日から条文のとりまとめ作業に入るという。今後の行方を注視したい。

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