なたまめの話-1

なたまめ、という豆がある。私もよく知らなかったのだが、福神漬などに入っていて、知らずに食べたことのある人も多いことと思う。この豆を、北村小夜さんからいただいて、育てている。不登校50年証言プロジェクトでインタビューさせていただいた際、北村さんが出している「なたまめ通信」を資料にいただいたのだが、そこに、なたまめにまつわる、こんな文章が挟まれていた。

なたまめは、蔓を高く伸ばし下から順に花を咲かせ実を着けますが、てっぺんまで行くとまた順に下に向かって実を着けます。すなわちなり戻るというので、無事戻ってくるようにという願いを込めて昔から旅に出る人に食べさせたと聞いています。戦争中は戦地に赴く人に食べさせました。私の従兄の久生さんの場合もそうしました。(中略)久生さんも20歳になって兵隊に行きました。(中略)でも久生さんは帰ってきません。私はカレーライスに添えられた福神漬になたまめを見つけると、前にいる誰彼に、誰もいなければ一人でぶつぶつと、「なたまめを食べて行ったのに帰ってきません」と言いつづけてきました。(「北村小夜の手紙」1996年12月)

北村さんは、なたまめを毎年、育てられているのだが、今年は育てられないので、ほしい方におわけしますという。そこで、あつかもしくも「ぜひ、ください」とお願いしたのだった。

なたまめには、赤と白がある。

ふつうは、5月ごろに種をまくようだが、いただいたのは7月初旬、間に合うかと懸念していたが、北村さんが「じゅうぶん間に合いますよ。育て方の説明を同封しますけど、まあ、豆にまかせたらいいようです」とおっしゃるので、何はともあれ育ててみることにした。

まず、驚いたのが、双葉の大きいこと。土に植えて3日ほどで、胚芽は、むっくりと頭をもたげ、大きな双葉を広げた。何か、並々ならぬ意志を感じる。そして、成長の早いこと。あっというまに2階の上のひさしまで伸びた。調べてみると、ジャックと豆の木のモチーフになった豆とのこと。さもありなんと思わせる早さだった。



そして、2階に伸びた先端まで、アリがやってくるようになった。カマキリもやってくる。そのおかげだと思うが、きれいな花を咲かせ、いま、さやが実りつつある。遅まきではあったものの、収穫はできそうだ。さやは巨大で、30~50㎝くらいまでになるそうだ。その形状から、なたまめ(鉈豆)と名づけられたという。

そして、たしかに上のほうから実がついて、下に向かって、降りていっている。人びとが、そこに願いを込めてきたのも、うなずける。そして、その願いがかなわずとも、願いを込め続け、育て続けてきた人も、また多くいるのだと思う。

このなたまめについては、まだ書くべきことがあるのだが、それは、また後日。

>つづき


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