不登校の理由の利用?

不登校の理由について、文科省の調査とNHKの調査では、大きな開きがあると報じられた(NHK2019年5月27日不登校新聞507号)。

詳細は上記リンク先の記事を参照していただくとして、結論だけ言うと、文科省が行なっている調査は教員が回答しているもので、不登校の要因を本人や家庭状況に求めているのに対し、NHKの調査は中学生本人が回答したもので、教員との関係や校則、部活、いじめなど、学校状況についての回答が多いとのことだった。

文科省の調査に問題があることは、以前から問題が指摘されていたことで、NHKの調査は母数が少ないとはいえ(378人)、注目すべきものだろう。

●日本財団の調査

もうひとつ、日本財団が昨年12月に発表した調査がある(「不登校傾向にある子どもの実態調査」)。こちらも、子ども本人に調査したもので、そのなかに「現中学生に聞いた中学校に行きたくない理由」という項目がある。それによると、不登校(30日以上の長期欠席)の子どもたちの中学校に行きたくない理由のトップ3は、1位「朝、起きられない」(59.5%)、2位「疲れる」(58.2%)、3位「学校に行こうとすると、体調が悪くなる」(52.9%)だった。調査の母数は6500人(有効回答6450人)で、NHKの調査より数はかなり多い。

調査報告では、「身体症状以外の要因では、すべての群で学業に関する理由が見られた」とまとめられ、「学びたいと思う環境」の項目につなげて報告されている。しかし、トップ3は身体症状になっているのだ。その後、日本財団はTwitterを活用して「#学校ムリかも」から「#ミライの学び」へというキャンペーンを行なっているが、ここには、どうも誘導があるように感じる。

●聞く側の耳の問題

不登校の要因について、学校状況をきちんと問わなければならないのはたしかだろう。そのためには、教員が回答している調査をもとにするのではなく、子ども本人に聞いた結果から考える必要はある。しかし、そもそも、不登校の理由を聞くということ自体、本来は問い直されなければならないことだ。

経験則から言えば、多くの場合、不登校の理由なんて、言葉では説明しにくいものだ。頭よりも先に身体が反応して、とにかく「学校ムリ」となってしまう。そういう意味では、日本財団の調査は、私の経験則にも符合する。理由が言葉になるとしたら、それは渦中のときではなく、時間をかけて整理されてからのことだろう。

不登校の理由を聞くとしても、そこで問われるのは、聞く側の耳のあり方だ。学校にもどるべきだというかまえで聞くのが問題なのはもちろんだが、別の意図であっても、最初から持って行きたい方向があって聞くのであれば、それも問題にちがいない。

●義務教育民営化への誘導?

NHKの調査、日本財団の調査、Twitterでのキャンペーン(「#学校ムリかも」から「#ミライの学び」へ)、不登校新聞の報道、NHKの報道(NHKスペシャル「“不登校”44万人の衝撃」)は、相互に連携し、ひとつながりになっている。そこに、子どもの声を素直に聞き、受けとめるというよりも、ある方向に持って行きたいという意図を感じるのは私だけだろうか?

一方で、教育機会確保法の見直しでは個別学習計画案が再浮上し、政府の規制改革推進会議では、ICTを活用した義務教育における通信制の導入が議論されている(NHK2019年5月23日)。経産省では未来の教室実証事業が推進されており、クラスジャパンプロジェクトでは、小中学園を開校すると発表された。どうにも、キナくさいと言わざるを得ない。

これまで、教員が一方的に不登校の要因を回答してきたのが問題なのはたしかだが、子どもに理由を聞いたところで、それが義務教育民営化の方向へ政策を誘導するためであるとすれば、さらに問題は大きく、不登校の子どもたちの声を利用していると言える。警鐘を鳴らしたい。

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